安心問答−浄土真宗の信心について−

浄土真宗の信心についての問答

追記:親鸞会が仏願の生起本末の「生起」しか言わないことを信楽釈で考える。

前回のエントリーの追記として書きます。
御文章2帖目8通について前回書きました。2帖目8通の中でも、「十方三世の諸仏の悲願にもれてすてはてられたる我らごときの凡夫」で、説明を終えるのが親鸞会です。

同様のことが、教行信証信巻の信楽釈でも言えます。信楽釈は、親鸞聖人が、信楽について解説されたものです。信楽は、他力の信心そのものですから、その体は南無阿弥陀仏です。南無阿弥陀仏は、阿弥陀仏の本願が成就して働いておられる姿です。
ですから、この信楽釈に書かれていることは、南無阿弥陀仏のいわれであり、仏願の生起本末の内容が書かれています。

しかるに無始よりこのかた、一切群生海、無明海に流転し、諸有輪*1に沈迷し、衆苦輪*2に繋縛せられて、清浄の信楽なし、法爾として*3真実の信楽なし。ここをもつて無上の功徳値遇しがたく、最勝の浄信獲得しがたし。(教行信証信巻・浄土真宗聖典(註釈版)P235

全ての人は、ずっと昔から迷いの世界を巡っており、本来真実の信楽を持ち合わせていないものであると言われています。

一切凡小*4、一切時のうちに、貪愛の心つねによく善心を汚し、瞋憎の心つねによく法財を焼く。急作急修して頭燃を灸ふがごとくすれども、すべて雑毒雑修の善と名づく。
また虚仮諂偽の行と名づく。真実の業と名づけざるなり。この虚仮雑毒の善をもつて無量光明土に生ぜんと欲する、これかならず不可なり。(同上)

次に、煩悩しか持ち合わせていないので、どれだけ善に励んでも、雑毒雑修の善であり、虚仮の行であるために、自力では絶対に浄土往生できないといわれています。

ここまでの部分を、機無といわれます。私には本来真実信心を持ち合わせていないため浄土往生はできません。また、自らの力でなんとか浄土往生しようとしても、「これ必ず不可なり」というのが、私の姿です。
仏願の生起本末でいえば、「生起」に当たる部分です。私が親鸞会に在籍していた時は、御文章と同様に、ここの部分まではよく聞いた記憶があります。逆に言えば、ほとんどこれしか言わないのが親鸞会です。

しかし、信楽釈は、これで全部ではありません。機無だけ、仏願の生起だけではありません。

本来真実信心を持ち合わせていない私をなんとかして救おうと、阿弥陀仏が私にかわり行をされ、真実信心を成就されたことが、次に書かれています。

なにをもつてのゆゑに、まさしく如来、菩薩の行を行じたまひしとき、三業の所修、乃至一念一刹那も疑蓋雑はることなきによりてなり。この心はすなはち如来の大悲心なるがゆゑに、かならず報土の正定の因となる。(同上)

阿弥陀仏が、法蔵菩薩となって私のために浄土を建立され、浄土に往生させようと大変な行をされたときは、少しも私を救うことに疑いをもっておられませんでした。この心は、阿弥陀仏の大慈悲心でありますから、私がその信楽を受け取ると、私が浄土往生する因となるといわれています。

阿弥陀仏の大慈悲心、信楽によって建てられた浄土ですから、信楽が浄土往生の因となります。本来私は持ち合わせていないので、阿弥陀仏が成就されたものです。

如来、苦悩の群生海を悲憐して、無碍広大の浄信をもつて諸有海*5に回施したまへり。これを利他真実の信心と名づく。(同上)

阿弥陀如来は、その真実信心を、苦悩の群生海を憐れに思われて、全ての人に差し向けられています。これを阿弥陀如来より回向される利他真実の信心といわれます。

後半の部分は、それぞれ円成、回施といわれます。仏願の生起本末で言えば本末にあたる部分です。この部分は、私が親鸞会に在籍していた15年で数回聞いたかどうかという程度です。特に回施の部分は、聞いた記憶がありません。

阿弥陀仏は、本来信楽を持ち合わせておらず、また自力で行を励んでも往生できない(自力不生)私をあわれにおもわれ、清浄な信心を成就され、全ての人に与えて下さいます。それを利他真実の信心といわれています。

まず、無始よりこのかたの自分の姿を知れとも、頭燃をはらうが如く善をせよともいわれていません。自らの力で浄土往生ができない私をあわれに思われて、私に差し向けてくださっているのですから、「まず○○しなさい、そうしなければ無碍広大の浄信は与えないぞ」とはいわれません。

私は疑い無く聞く一つであって、何かをせよといわれる阿弥陀仏ではありません。

*1:諸有は二十五有(迷いの世界の総称)のこと。一切衆生は車輪が回転し続けるように迷いの世界を果てしなく輪廻するので、諸有輪という。

*2:輪廻の苦しみは車輪が回転し続けるように果てしなく続くことから、車輪に喩えたもの。

*3:本来。

*4:愚かな凡夫。

*5:迷いの世界の数限りない衆生を海に喩えていう