安心問答−浄土真宗の信心について−

浄土真宗の信心についての問答

「信仰が進む」という言い方について考える(みかみさんのコメント)

みかみさんよりもう一つ質問を頂きました。

「あの人は、信仰が進んだ人だ」などと、「信仰が進む」という表現を、親鸞会で、よく聞きましたが、なぜか私はその表現が好きになれませんでした。
いわゆる横の線を縦の線へ向かって進んでいくということなのでしょうが。
自分で、どのへんまで来ているかと計らう自力のくさみがあり、イヤだったのかもしれません。
信仰が進むという表現は、好んで使ってもいいものなのでしょうか。
(みかみさんのコメント2)

http://d.hatena.ne.jp/yamamoya/20090823/1251038592#c1251218975

回答します。
「信仰が進む」という表現は、好んで使うべきものではありません。

信仰とは進むものでも後退するものでもありません。また、当事者と阿弥陀仏の事なので、第3者が言えないことです。

コメントに書かれた言い方について考えます。

「あの人は信仰が進んだ人だ」と言う言い方について

次の2つが考えられます。

  1. 阿弥陀仏に救われた人
  2. 熱心な人
「1.阿弥陀仏に救われた人」の場合

「阿弥陀仏に救われた人」と直接言えば、信心を認定するようなのでそれを避けるための言い方なのかもしれません。しかし、「真実信心=信仰が進んだ結果」ではありませんから不適切です。

「2.熱心な人」の場合

この場合も、「信仰が進んだ人」という言い方は適当ではありません。
これも「信仰が進んだら救われる」ということをイメージさせるのであえて使わなくてもよい言い方です。
熱心に聞法されているとか、真剣に求めている人など他にも言い方はいろいろとあります。


「信仰が進む」という言い方がよくない3つの理由

もう一つの「信仰が進む」という言い方もよくない理由は、以下の3つになります。

  1. 信仰は自らの行為で進むものではないから
  2. 進むというと、ただ今一念の救いにならないから
  3. 第3者にわからないことだから
1.信仰は自らの行為で進むものではないからについて

阿弥陀仏に救われるか救われないか、また救われようという心も全て阿弥陀仏から差し向けられることであって、私の力ではありません。

まことにこれ大小・凡聖、定散自力の回向にあらず。ゆえに不回向と名づくるなり。(教行信証・信巻)

真実信心とは、私が自分の力で回向したものではありません。言い換えると、自分で信仰が進んだ結果ではありません。だから、不回向といいます。阿弥陀仏から差し向けられる他力回向だからです。

2.進むというと、ただ今一念の救いにならないから

「信仰が進む」というと、阿弥陀仏の救いにどうしても幅ができてしまいます。
簡単に表にするとこういう図になると思います。

信後 信一念 信前A 信前B
信心 信仰がかなり進む 信仰が進む 信仰が進んでいない

一念というのは、親鸞聖人が言われているように時剋の極促です。

それ真実の信楽を按ずるに、信楽に一念有り。『一念』とは、これ信楽開発の時尅の極促を顕し、広大難思の慶心を彰すなり(教行信証信巻)

真実信心は、一念の信心ですから、進むものではありません。
「信仰が進む」という言葉は、反対に「信仰が進んでいない」という言葉も存在することになります。
聞いている人はどうしても、自分が救われていないのは「信仰が進んでいないからだ」と思います。
救われないのは、「信仰が進んでいないから」ではありません。阿弥陀仏から一念で南無阿弥陀仏を受け取っていないからです。
「信仰が進んでいないから」とすると、「信仰が進んでから」でなければ救われませんので、ただ今救われると言うことはありません。
「信仰が進んでいないから救われない」と思う人は、「信仰が進む」ように頑張ろうと思いますから、「弥陀に救われること」ではなく「信仰が進むこと」が目的になってしまいます。

「信仰が進むこと」が目的とすれば、最終的に獲られる結果も、「信仰が進んだ」ということであって、「阿弥陀仏にただ今救われる」ことにはなりません。

3.第3者にわからないことだから

「信仰が進む」という言葉を使うことがあるとしても、進むとか進まないということは、それは阿弥陀仏にしか分からないことです。

進んだことが見える人でなければ「進む」という言い方はできません。

上記のような理由で「信仰が進む」という言い方は好んで使うべきではありません。
「信仰が進む」という言い方は、「あなたは信仰が進んでいない」と相手に言っていることになります。
「信仰が進んでいないから、進むために○○をしなさい」と相手にいう言葉ですから、目的は信仰ではなく「○○しなさい」になってしまいます。